【ゲーム論】MMORPGと価値観の共有

『MMORPGにとって最も重要な要素は何か?』

この質問に、ほとんどのクリエイターが『コミュニケーション』と答えるのではないだろうか? 実際、僕は数人のディレクターにこの質問をしたことがあるのだが、みんな口をそろえてそう答えた。

でも僕はそれは間違いだと思っている。確かに、『コミュニケーション』が最も重要な要素だった時代はあった。それは、昔リネージュが『魔性のゲーム』と呼ばれていたぐらい過去の話だ。でも今は違う。今の時代のMMORPGにとって最も重要な要素は 『価値観の共有』 だ。

昔のMMORPGはこの 『価値観の共有』 がうまくできていたからこそ『コミュニケーション』が重要な要素だったのだ。




MMORPGにおける価値観の共有とは?


ニートがひたすらポリン(ドラクエで言うところのスライム)を狩り続けて「俺なんでこんなことやってるんだろ……」と思い始めていたとする。

そんな時にビルゲイツがツイッターで「ポリン狩りなう」とつぶやいたとする。

すると、ニートは倉庫にたまった大量のべと液の画像を自慢げにツイッターにアップし、意気揚々とポリン狩りを再開する。

この例えで伝わるかどうか不安ではあるが……、簡単に説明すると、ビルゲイツの資産からポリンを狩るという作業は、時給換算すると相当なものになる。それと同じことを生産性0のニートがするわけだから、その行為自体に価値があると錯覚するのである。

これはMMORPGに限らず全てのオンラインゲームに共通することだと言える。そして、この『価値観の共有』がうまくいかなくなったことが、日本でMMORPGというジャンルが廃れた原因なのだと思う。


価値観の共有は最高のコミュニケーションツール

昔お世話になっていた社長と飲みに行ったときの話に、特に印象に残っているものがある。その社長は、海外旅行をするのが趣味で、その時は、僕に海外旅行の素晴らしさと、僕も行くべきだとしきりに海外旅行を薦めていた。

もちろん酒の席なので、本気じゃないことはわかっていた。だから、僕も適当に話を合わせ、「いやぁ、でも、外国人と一体何を話したらいいんですか?」と、尋ねた。

すると、社長は笑いながらこう答えた。「そんなもん、『サッカー』か『ポケモン』の話をすればいいんだよ。日本のゲームは海外でも人気だから、ゲーム作ってるって言ったら人気者になれるよ」

僕はなるほどなと思った。これは外国人だけじゃなくて、友達や家族、ほぼすべてのコミュニケーションに当てはまる。共通する話題が無ければ盛り上がらない。さらに言ってしまえば、この話に出てきた『サッカー』も、本来はただの遊びに過ぎない。なぜ仕事(スポーツ)として成り立つのかといえば、それに価値を見出す人がいるからだ。これは、近年ゲームがEスポーツと呼ばれるようになったことと同じ意味だ。

そういう意味合いでは『価値観の共有』は全てのことにおいて重要なことなので、『MMORPGにとって最も重要な要素』の答えとしてはずるいともいえる。だけど、昨今のMMORPGを見ると、これに気付いていないクリエイターが多いのも事実なのだ。


価値観の共有ゆえのデメリット


最初に、ビルゲイツがポリンを狩ることで、ポリン狩りに高い価値観が生まれると話したけど、それは全く逆の意味も合わせ持つ。

それがBOTの存在だ。

例えば、眠い目をこすりながら必死でポリンを狩っているプレイヤーがいたとする。その横で、機械的な動きをするキャラクターがポリンを狩っていたらどう思うだろうか? あまりにもバカバカしい。

RPGにおいて、こういったつまらない作業は、プレイに緩急を付け、より大きな達成感を得るために重要なことなのだが、それに水を差されてしまうのだ。

そして、BOTが存在するということはRMTも存在する。ちょっと調べれば、RMTサイトを通じて、ポリン狩りの時給換算までできてしまう。つまらない作業に安い賃金まで提示されてしまうのだ。これではオフゲーをやっていた方がいい。


価値観の共有から見たソーシャルゲーム

近年、MMORPGの衰退とは逆に、ソーシャルゲームが流行っているが、なぜソーシャルゲームが流行ったのかも『価値観の共有』で説明することができる。例えば、ガチャが1回100万円だったとして、誰も回さなければそれにそんな価値は無い。でも、実際に回す人がいたらどうだろうか?

AP(時間で回復するゲームをプレイするために必要なポイント)なんかも実際に買う人がいるから、そこに価値観が生まれる。

ソーシャルゲームは、課金形態がアイテム課金であり、それも、Pay to Winが当たり前だ。プレイヤーも、極一部の廃課金者が売り上げのほとんどを占める形となっている。

つまり、富裕層と貧民層の価値観を共有させることで、貧民層は無料でガチャやAPを貰えてお得感を味わうことができる。これは、最初にビルゲイツがポリン狩りをすることでその行為に価値が生まれるといった理論と同じことだ。

アルバイトのできない学生にとって、金持ちと価値観が共有されるということは、遊ぶことでお金稼ぎができるということと同じことだ。そして、人が集まり、注目が集まるほど、強くなる(目立つ)ことに対する優越感が高まり、富裕層がお金を落とすのである。

といっても、理屈が分かったところで、そんな口で言うほど簡単にはいかない。実はほとんどのソーシャルゲームが 『価値観の共有』 に特化したデザインになっていたりする。

・媒体がスマホ
PCと違い、スマホは誰でも持っている。
特に、バイトもできない学生が自由にできる媒体というのは、多くの貧民層を集めるのに最適。

・隙間時間で出来るゲームデザイン
仕事で時間の無いプレイヤーも遊べるので、多くの富裕層を集めることが出来る。
・無料ガチャ、APの自然回復
Pay to Win要素でありながら、貧民層はお得感を感じることができる。
・取引ができない
無料ガチャを実現するために必要なことだけど、それ以外にも、チートやBOTにより、低い価値観が共有されてしまうことを最小限にとどめることができる。
・PvEによる対人要素、ランキング
対人要素があっても、実際にプレイヤー同士で戦うということはほとんどない。
力量の差に対する不満が起きにくく、課金に対する意欲を高められる。

・完全にNPC化されたプレイヤー
クエストに出発する際等、手伝ってくれるプレイヤーを選択するあれ。
足の引っ張り合いはないので、力の差が歴然でも、萎えるより感謝の念のほうが強くなる。

・頻繁に行われるコラボ
話題性のみならず、新たなプレイヤーの開拓と、好きな作品ならキャラクターへの愛着が増し、価値観を高めることが出来る。
他にも、演出に特化している点は、PRがしやすくなるという利点がある。何度も例に出しているビルゲイツだが、実際は子供たちに大人気なヒカキンだったり、MAX村井だったりするわけだ。

ソシャゲが流行ったのは、ギャンブル性の高さや射幸心を煽るからといったことだけではない。『価値観の共有』がうまくいったから流行ったのだ。ソシャゲの開発も当たれば儲かるみたいな話があるけど、完全なギャンブルというわけでは無い。


最後に...

この記事を見ている人の中にはBOTやRMT、チートがそんなに致命的な影響を与えているのかと疑問に思う人がいるかもしれない。だけど、数か月ハマったゲームも、ずるをすれば1日で熱が冷めてしまったりするものだ。これは、ゲームデータをいじったことがある人ならわかると思う。

MMORPGでは、コミュニケーション機能の充実により、それらが嫌でも目に付いてしまう。そして、『価値観の共有』により、簡単に価値が無くなってしまうのだ。

以前、爆発的な人気を博した『艦これ』はゲーム自体にコミュニケーション機能はほとんどなかった。ある意味、価値観の維持のためにはコミュニケーション機能を制限した方がいい場合もあるのだろう。それぐらい、『価値観の共有』はMMORPGのみならず、オンラインゲーム全般にとってとても重要なことなのだ。

ただ、勘違いしないでもらいたいのは、 『コミュニケーション』 が必要ないということではない。そもそも、人と人との思い出には何ものにも代え難い価値がある。値段なんてつけることはできない。コミュニケーション機能の充実は、価値観を損なう原因となるが、最大の価値観を生み出すのもまた、 『コミュニケーション』 なのだ。

今回の記事では具体的にどうすればいいかといったことは書いていない。でも、『価値観の共有』を意識すれば、どうすべきかおのずと見えてくると思う。

オンラインゲームを作っているクリエイターは是非ともこの記事を参考に、面白いゲームを作ってもらいたい。

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